仕事が終わってバスに乗り、10分程度で降りてスーパーで買い物をしてから、新居まで歩いて5分。天気のいい日などは途中で西の地平線に太陽が沈むのを見ることができた。道の向こうに夕焼けが、右手には小学校の運動場があり、思わず立ち止まってしばらく眺めてしまうほどに郷愁を誘う風景だった。疲れた私の心に染み入る風景。私はあの時間が好きだった。その時がずっと続けばいいと願っていた。無理だとわかっていても。 まったく認められないというわけじゃない、私の文章。ある程度までは認められて、活字になって文芸誌に掲載されたこともある。だから、秀でた才能はなくとも多少は物にならないわけじゃないんだろう。ただ、私は作家になりたいと思っているわけじゃないと気づいてしまった。作家になりたい理由はあくまで外で働かなくてもいいからという、それだけの理由でなりたいと思っていただけだったから。だから、私は作家にはなれないし、今はなるつもりはない。今書き続けているのは目標があるから。それだけのために締め切りのある原稿を書き続けている。 平凡を今は望んでいる。ストレスなく生活していくことだけが今の私の望み。 息子を生み落してからは本当に生活が一変してしまった。いいも悪いも。ただ、この場合の「悪い」は必ずしも「悪い」というわけじゃなかった、今思えば。当時は本当につらくて、なんで私ばっかり…と思ったものだったけど、子供を産んだことで文章を認められたということもあり、何事も経験なんだと痛感したものだった。 絶対忘れないと誓っても、忘れてしまうものもあるし、忘れたくても忘れられないということもある。 | ||