１０月２０日月曜日晴れ
私は錬司が原田知世の話をするのが嫌いだ。
中山美穂も嫌だけど、原田知世の方がもっと嫌だ。
それは、前に好きだった人が知世に似ていたから。
だから、知世が好き、というわけではないと思うけど…。
たぶん、これは嫉妬だと思う。
そりゃあ、私だって、ＨのことやＳ君のことあるから、錬司のことを言えたもんではないけど。
こればっかりは理屈で片づけられない。
錬司が「知世ちゃんはかわいい」と言うと腹が立つというより、なんかこう惨めな、そして、私の知ってる錬司じゃない気分、というか、とにかくそこにいたくないような…うまく言えないけど。
たぶん、私がホッタ君やＫと映画を観に行くことを楽しみにしてることを聞いた錬司の、その時の気持ちと一緒なんだろうな。
錬司は、あのユーシンより、一人の女を縛り付けることはしないだろうけど、でも、それだけにジレンマになるんだろう。
なんといっていいのかな。
錬司は私を愛してる、と言った。
私も錬司に愛してる、と言った。
そして…でも、錬司は知世がかわいい、好きだ、美穂も、そして、かわいい女の子を見ると、やっぱり目が行く。
私もデビッド・ボウイや山崎勉や、他にすてきな男の人は好きだし、デビッドなんか、お嫁さんになりたいと本気で思ってた。ニモイも好きだし。
で、愛してる人がいるのに、他の人もかわいいと思ったり、すてきと思ったりするものなのよね。
うーん、つまり、私以外の人をかわいいと言ったり、目を行かせたりしてほしくない、というのが、私の気持ち。
いつも私だけをかわいいと思い、見ていてほしい。
それがなぜ出来ない、と。
ばかだがー、私がそんなことできんのに、錬司にしてほしいと願うことじたい、ばかなのね。
でも思うの、こんなことがあるから、他の人もかわいくてすてきに見えるから、心変わりもある、と思うの。
これで、ずーっと会わなかってごらんなさい。
私も錬司も、身近な新しい恋人をつくっちゃうと思うの。
かなしいことだけど。
ほんとの愛ってなんだろう。
私はこの人しか愛せない、という気持ちを持ちたいのだ。
むしろ、ＨやＳ君の時のほうが、その気持ちに近かったような気がする。
「この人しか愛せない」ということは絶対にありえないと私は思っているのだと思う。だからこそ「この人しか愛せない」「この人しか愛さない」という幻想に憧れて、それを追い求めてしまうんだろうなあって。でも、きっと、そんな人はこの世には存在しないんだ。それはわかってるんだ、私もね。
だって、そうじゃなきゃ、その愛する相手がいなくなってしまったら、自分はもう誰も愛さずに生き続けなければならないもの。
そういうわけにはいかないでしょ。
もしそれがまだ年若い人であったなら、新しい他の相手と恋愛しないなんて…言い方は悪いけど、もったいないじゃない？
錬司は私のことを縛り付けるような男じゃない。結婚前、転勤してそばにいない時に、私が他の人と映画観に行ったりどこかに出かけたりするのを「しかたない」と言っていたもの。けれど、たぶん、嫌な気持ちは持ってたんだろうな。ただ、男のプライドとしてそれを無理やりやめさせることはできない人だったんだ。
私もそれと似たような気持ちは持っていた。ただ、私の場合は、どうしも嫉妬してしまう気持ちが出てしまって、それを錬司にぶつけたこともある。けれど、わかってはいたんだ。私もまた縛り付けちゃだめだって気持ちは持ってたし、他の人に気持ちをかけてしまうそれも理解できたから。私自身も「この人いいなあ」と思う人だっていたわけだから、錬司と付き合ってても。それは芸能人だけに限らず、職場の人とか友人とかにもいたわけで。
だから、私たちの関係も強固なものではなかったということだ、当時。よく壊れずに続けられたよなあ。まあ、たぶんに運が良かったんだろうな。もし、私が、ちょっといいなと思ってた人が強引に迫ってきてたら、私もフラフラッと浮気してしまって、それがもとで錬司と別れてしまったなんてこともあったかもしれないもの。
でも、私はやっぱり今でも、錬司は「おまえが一番だよ」ではなく「おまえだけだよ」と思っていてほしいし、言ってほしい。そういう人であってほしい。無理だとは思うけれど、それでも。
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