確かに息子は産んだ。けれど、思い出の曲を習わせるなんてことはしなかった。息子は我が道を歩きつつある。それでいい。私の思い出は、結局は私の思い出でしかないのだから。そして、錬司もやっぱり今でも、とある曲を聞くと、誰かのことを思い出すらしい。それに少し嫉妬することもあるけれど、それはどうしようもできないことだよなあ。私にだって思い出してしまう人がいるから。でも、私は錬司をとてもとても愛しているって今は実感している。たぶん、「今の気持ちが、これから一生涯、変わらないことを願いたい」と思ったあの頃よりずっともっと深く愛するようになったって。たとえ過去のその人たちがどんなに特別ではあっても、この気持ちを抱く人は錬司に対してのみ。 | ||