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Little Eden



12月17日木曜日晴れ

今の私の気持ちは恐らく誰にもわかるまい。メッコが、すばらしい勢いで「おめでとう!おめでとう!」と、私の体を叩きまわった。だけど、私の心は冷え切っていた。
3年前、境高に合格した時のことをふと思い出したが、今の私の心には、合格した喜びより以上に、これで良かったのだろうか、という、後悔のようなものがあるのだ。
もっと早くに保母になる決心をすれば良かった。結局、保母になるつもりなら、もっと早くから決心しておくべきだった。それなら、島根大学の教育学部幼稚園科があったのに。
せめて島大に国文科があったなら、早くから島大に入るために、もっと勉強してただろうに。
なぜ、こんなことをグチるかというと、確かに他の短期大学に比べ、鳥取女短は割合、費用は安いが、それでもやはり私立だから、国公立に比べれば高い。
合格はしたけど、親たちの話を聞いていると、なんだか罪悪感を感じる。
これなら、まだ就職したほうが良かったかなとも思う。
このような複雑な気持ち誰にも話せない。私の家庭の経済状態の悪さをいったい誰が信じてくれよう。
私立大学に入ると聞いただけで「お金持ちの子はいいなあ」と言う友人たち。
耳をふさいで「あんたたちに私の気持ちなんかわかるものか!」と叫びたいのに、私の顔はニコニコして「そんなことないよ。私の家だって苦しいのよ」と言うしかない。
叫んでみたって何にもなりはしない。相手を困らせるだけだ。
こんなことならいっそ早くに結婚してしまおうか…。

お父さんは仕事の帰りに大学に寄ってきたそうだ。ケーキを買って帰ろうとしたけどなくて、鳥のモモを買ってきたと聞いた時、心にわだかまりはあるが、それでもその一瞬はそんなこと忘れて心から笑ってありがとうと言った。
シンゾウ君にもまだ本当のことは話せない。今は彼を困らせたくない。
せめて共通一次が終るか、それとも全ての終った春休みかに、これを見せてこの半年近く、私が思っていたことを知ってもらいたい。
私にだって本当のことを話したい人がほしいもの。Tomyはなんでも私にグチを話してくる。
私だってグチを聞いてくれる人がほしい。何の意見もいらない。ただ、私がベラベラ喋るのを聞いてくれるような人が。
シンゾウ君なら聞いてくれるんじゃないかと。恐らくそれもあって、私は彼を好きになったのだろう。
ホッタ君やトッペさんだと、悩みを全て笑い話にしてしまうから、そんな愉快な人たちだから、よけいに話せない。
この一年間、くじけそうになった時、いつもシンゾウ君のことを考えた。そして、いつも彼の存在のおかげで、私は助けられた。
シンゾウ君はそこにそうやって存在していて、少なくとも私という人間を救っている。まだ多くの人を救っているだろう。だけど、この私はここにこうやって存在していて、誰かのためになっているだろうか。私が存在するおかげで誰か幸せになるだろうか。わからない。もしかしたら、シンゾウ君にとっては、私は害虫でしかない存在なのかもしれない。それを思うと恐ろしくてたまらない。
私は、シンゾウ君のそばにいたいというエゴイズムを捨てて、彼から離れたほうがいいのかもしれない。
だけど、私のエゴイズムはかなり強いなあ。
それでも、私はシンゾウ君を愛してやまない。(救い難いほどの熱中振りだ!私は病気じゃなかろうか!やっぱり試験が終ったからだろう)

でも、結局は私は保母さんにはならなかった。ピアノの講師にもならなかったし、司書の資格も取らなかった。何のためにあの大学に行ったのか、今では無駄な金を捨てたようなもんだと痛感する。確かに、集団生活や、体調のことなどで良い体験をさせてもらったんだけど、それは時間と金に見合うものじゃなかった。就職すればよかった。やり直せるのなら、もう一度あの頃に戻って、進学せずに就職を探したのに。






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