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Little Eden



12月6日日曜日曇り

昨日はとうとうシンゾウ君には会えずじまいだったけど、政経や化学よりはいいんじゃないかしら。
私は2校時が終ると、先生に受験届けの紙を貰ってきた。
それから図書室へ行き、本をまた新しく借りに行った。とうとうカードはNo.5へ。
今年中にNo.6へ行くのは無理かもしれないけど、なんと、エイザワ君はNo.7!確かヒサミもそのはず。
ま、私はかなり読まなかった期間があるから、実質的は同じくらいなんじゃないかなぁとも思う。
それからやよいへ行ったら、雨が降ってきて雨やどり。
本売場で話してたら、いつの間にか私のうしろにユーシンが。私はどうしてよいのかわからず、そのままの姿勢で動けなかった。すると、ヒサミが通路を開けてくれたので、そそくさと逃げました。
すると、なんとトッペさんとナカムラ君がいる。私は特にトッペさんにユーシンに見つからないようにしないと殺されるよ、というようなことを話して、私は心の中で、こんなややこしい時にシンゾウ君がいなくて良かったと思った。
それ以来、ヒサミは私のもとに帰ってきませんでした。ユーシンが連れ去ったのだ。
ひとりになった私は仕方ないのでトッペさんとナカムラ君とやよいで追い駆けっこした。(これでも高校生か!)
ナカムラ君とは途中で別れ、トッペさんは家まで送ってくれた。
それから彼はホッタ君の家に行ったろう。

本当にユーシンってヒサミの行動はなにからなにまで知ってるみたい。(ひょっとしてエスパー?)
ヒサミは、こわいこわいって言うけど、私としては、そんなことになったことないから彼女を羨ましく思う。ホント。
一度でもいいから、好きな相手に私以上に好きになってもらえたら、と思う。
そんなこわい思いを一度はしてみたいな。だって、それは幸せの恐怖だよ。私が経験したあのこわさと違って。
なぜか私が異性として意識する人は、私のことを好きになってはくれない。
それでもこうやって人を好きでいられるというのは、恐らく私が母性本能の強い女だからだろう。
とにかく、今のこの気持ち、シンゾウ君を大切に思うこの気持ちを、これから大事にしていきたいと思うし、彼の才能をつみ取ってしまうような存在にはなりたくない。

心優しい私たちの父は境のコクケン家の何人きょうだいかの末っ子だった。
父のお父さん──つまり、私たちのおじいさんは若い頃は道楽者で、当時、かなりの財産のあった名門コクケン家の有り金全部使い果たしてしまった。
しかし、父のきょうだいたちは、祖父母の世話をまったくせず(同じ屋根の下に住んでいながら)仕方ないので、母と父がわざわざ境まで毎日毎日通ったのだ。
私はそういった母をいつも見てきた。その頃にはすでに祖母は死んでいた。
祖父は地獄のような暮らしをしていた。もう死期の近い頃には、立ち上がることもできないので、小便も大便もその場ですませてしまうらしく、祖父の部屋は犬小屋同然だった。
それでも父の兄たちは何の世話もしなかった。
そして、ある雪の朝、祖父の死の知らせ。今から6年前のことだった。
それなのに、こんなひどいことはない。祖父の葬式にも出してもらえなかった。
父と母が境に駆けつけると門前払い。これでも人間か、と疑いたくなる。
さて、そして昨日、父の兄が死んだ。私は悲しいとも思わなかった。
父としては、憎んでも憎みきれない人たちだろうが、心の中は悲しかったにちがいない。
祖父の葬式でさえ出てくれるなといったコクケンの親戚たちは、今度は全ての葬式の手続きを父に押しつけた。
母は涙ぐみながら「あの人たちが私たちになんぞしてくれたことがあるか。おじいさんの葬式には出させてくれず、私たちが困ってる時も助けてはくれず、それなのに…」
気の良い父には断ることはできない。しかし、仕事を休むわけにはいかず、かわりに母が手続きをしてまわることになった。今、私の家は経済困難に陥っている所だから。(私の大学の費用をつくるため)

私は父と同じA型であって、かなり境のコクケン家に近いらしい。私は、そのことにぞっとしないわけにはいかない。
あの狂人的な人たちに近いなんていやだ。自分もいつあんな人間らしくないことをするかと思うと恐ろしい。
しかし、その中にあって、私の父のような心優しい人もいるのだから。(恐らく祖母の血を多く受けついだのだ)
私は決して父のような不幸な家庭は作りたくない。
大好きだった境のおばあちゃんは、子供の私が「おばあちゃん、おばあちゃん」と言うと、いつもニコニコしておこづかいをくれた。あの笑顔の下には、苦々しい苦悩が隠されているなどと子供の私に知ることができたろうか。
私は父や母をそんな目にあわせたくないし、そのつもりもない。
そして、私が嫁入りする所の父母もそんな目には決して合わせはしない。

この世の地獄を知っている、ということは、ある意味では人間の未来のために良いことなのだ、と私は思う。

だから、私はずっとトラブルに巡り会うのかしらねえ。(笑)

今思うと、私は確かにあの人たちと同じ血が流れているのだと信じられる。子供の頃の私には気づけなかった。私がどんなに愚かで非人道的な人間であるかってことを。今まで私が関わってきたトラブル、無意識に招いてしまった出来事すべてがそれを示唆しているのだもの。
そして、もしかしたら、私は当時の父の兄弟たちの気持ちがわかるかもしれない。どうして自分たちの親にそんなひどいことができたのかって。そして、彼らが私の母にどれだけの劣等感を抱いていたのかって。それから、年を取っていくにつれて私の父がどれほど祖父に似てきているかってことをしみじみ感じる。祖母じゃない、祖父に似てきているし、さらに、私自身も父に年々似てくることに気づいてしまった。絶対似たくないと思っていても、それでも似てきてしまうことに複雑な気持ちを抱いている。

それから、私はやっぱりヒサミの体験した恐さは一生経験しないで終りそうだなあと思う。まあそれはしょうがない。もうこんな年になれば、そんな経験はしたいとも思わないし。あとは妄想でいいよ。夢の中でいいよ。それだけで私は満足だ。






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