画像提供サイト
Little Eden



10月14日水曜日曇り

「自信を持って!あなたならできるわ!」と言えなかった。「1日8時間勉強しても追い着かん」と彼は言った。私は馬鹿じゃないかしら。「明日からテストだよ。自信のほどは?」なんていうふうにきりだすなんて。せめて「勉強は進んでる?」ぐらいならかわいいのに。
夜8時から始めて朝4時頃までやっているそう。今は夜11:00.あの人は頑張ってるだろうな。
お弁当を食べながらでも勉強しようとするあの人。その気持ちわかるのだけど思わず言ってしまった。
「食べながらは消化に悪いわよ」すると案の定「時間がもったいない」と答えた。
私は「わかるけど、なるべくならやめたほうがいいよ」と言うしかない。
ああ、私は何もしてあげられない。せめて心の支えにもなれないのだろうか。
私はシンゾウ君がかわいそうでかわいそうで、そして、自分の無力さがなさけなくってポロポロ泣いてしまった。
あの人の前では泣けない。あの人の前では明るいテンコでいなくちゃいけないもの。
教室に戻って私は自分の前にシンゾウ君がいなくなるやいなや、止めていたものがあふれてきた。
あの人の苦しさは皆が背負っているものと同じだとはわかっているけど、それでも彼がかわいそうで仕方がなかった。トランペットを吹いてる時のあの威厳に満ちた姿ではなく、そこには小さく疲れ切った姿がしょんぼりと座っていた。だけど、彼は、その地獄を抜け出た時、もうひとまわり大きな人間に生まれ変わるのだ。
そして、きっともう私の手に届かぬ存在になるに違いない。
でも、そんなふうになる彼に一歩でも近づくためにも、私も頑張ろう。私だけの道を歩んで。
私の理想に近づくこと、それはイコール、あの人に近づくことなんだもの。

だけど、せめてテスト期間中ぐらいは彼のことを忘れることができればいいのに、ああ本当に現実は厳しい。テストと彼と両方から圧迫がかかってくる。私は彼に嘘をついてしまった。
政経と古典以外なら自信あるよって。本当はみんな自信ないのに。
私が落ち込んでいるのを知れば、よけいに落ち込むでしょうから、本当のこと言えなかった。
私は私なりに苦しんでいるのよ、シンゾウ君。でもいいわ。私はいの。だから、どんどん心の中のうっぷんを私にぶちまけてちょうだい。それであなたの気がすむなら。私はそうやってあなたと同じ苦しみを味わうわ。
そして、あなたがそうなるように、私もひとまわり大きな人間になりたい。

理想かあ…いまだに近づいてないよな。死ぬまで無理なような気がしてきた。






inserted by FC2 system