画像提供サイト
Little Eden



9月16日水曜日晴れ

自分が取りかえしのつかないことをしてしまったような気がしてならない。
昨日はヒサミとトッペとホッタ君とで”シリウスの伝説”&”ユニコ”を観にいった。
行きの汽車でマルオカ君やシノダ君、ゴンちゃんたちを見た。
昼過ぎに帰って来たのだが、私は恐ろしいことを実行してしまったのだ。
シンゾウ君の家に行ったのだ。彼は寝起きで機嫌悪そうだった。
私と彼は家の前の道路の脇に並んで座り込んだ。
最初、沈黙が流れ、私はしばらくしてから、今思い出すと恥ずかしさで死んでしまいそうなセリフ「あたしのことどう思ってるのか聞きたいの」と言った。
私はそのセリフを吐いてすぐに後悔した。彼は非常に困っていた。最初のうち、うなっていたもの。そして、やっと言った言葉「そんなこと話してる場合じゃないでしょ」
私は愚かな自分が恥ずかしかった。本当に彼は立派な人だ。
「今まで俺は部活一本でやって来て、そんなこと考える暇なかったし、ましてやこれからは受験。学校祭も終わったことだし、それでやっと勉強ひとすじでできると思ってた矢先に…」
そう彼が言った時、私はなんてばかなことをしてしまったのだろうと泣きたくなった。
自分から持ちだした話なのに、もうこんな話やめましょうと言うしかなかった。
確かに彼がこんなこと言うだろうとは十分すぎるほどわかっていたのに。
昨日の私は実際おかしかった。これを知ったら、きっとマナミは怒るだろうな。
宴会でイナオ君やカワノ君を見てから、私はおかしかった。
だけど、私ひとりがやっぱり悪いんだ。ヒサミは悪くない。結局、呼び出してもいいかと言う彼女の言葉に頷いたのは私なんだから。
私はシンゾウ君に今までのうちで最大の迷惑をかけた。
彼は、好き、とも嫌い、とも言わなかった。そういうことは大学に入ってからとも言っていた。
なぜ私は昨日言ってしまったんだろう。本当は卒業式の日に言うつもりだったのに。
ホッタ君が「卒業してしまえば会えなくなる。大学が違うから。なら、今しかチャンスはない」と言ったあの言葉をなぜ受け入れてしまったのか。
なぜマナミの言った。「かたをつけるなら6月までに。それ以後は絶対言うな!」というのにしたがえなかったのか。

私たちは30分以上そこに座り込んでいた。通る人もたくさんいた。
だけど、私は立てなかった。立ってそこを立ち去れなかった。
シンゾウ君は本当にやさしかった。昨日の彼は今まで知っている彼の中で一番やさしかった。
4月に告白した時のように、なぜかまた全然別のことも話した。
「よく家がわかったな」って言うから「知ってた」と答えた。
映画の話もした。またシンゾウ君ったら、日活を観に行けばいいのにと言った。あればっかり!
ほとんど大学の話ばっかりした。したいと思ってたからちょうど良かった。
それからシンゾウ君ったら、私の髪の毛をひっぱってからかうの。「おっ、少ない、少ない」と言いながら髪をひっぱるから「あんまりさわらんでー。はげる」と言ったら、よけいにさわるんで、きゃあきゃあわめいたら「からかってあそぶとおもしろー」と言った。(なんではげの話になったんだろー?)
本当に不思議だった。なんのためにここにこうやって座ってるのか忘れてしまいそうだった。
でも、そんな楽しい話の合い間に、ちょこちょこ本命のことが彼の口から出るたびに、私は自分から持ち出したくせに、やめて!そんな話よりもっとほかの楽しい話がしたい!って心の中で叫んでしまう。
彼は今のままの成績ではとても無理だと言った。すべりどめなしで島大一本だと。
落ちればしかたなく浪人をしなくちゃな、とも言った。
私、待ってもいいだろうか。あなたが無事島大に入るまで待ってもいいだろうか。
あなたの返事を待ってもいいだろうか。彼は別れる時、中学の頃も、これと同じようなことがあったと言ったけど、その相手は今どうしてるかしら。もしかしたらその人が根雨高の彼女と噂されてる人かもしれない。
私のことはどうにかなるけど、とにかくシンゾウ君頑張ってね、としつこく言ったら、むこうもしつこく「人のことよりも自分のことを心配せんといけん。人事じゃないんだで」と言った。
そんなあなたの本心はわからないけど、私は本当に身近にあなたを感じた。
だけど、これだけはわかる。シンゾウ君は私を女として好きとか嫌いとか考えてたんじゃなくて(実際そういうことは興味ないって言ってたから、ほかのことで精一杯で。うらやましいなあ)気のあう友人と思っててくれたんだ、と。むろん、もしかしたらこの先、恋人同士にでもなれるような仲として、とつけくわえておきたい。なんだか、彼と私の仲、私がしっかりすればずいぶん長く続きそうな気がするもの。
マナミはこんなことするべきじゃなかったと言うかもしれないけど、この事実を受け入れてほしい。そして、この馬鹿なテンコを軽蔑しないでほしい。

当時は私は自分を責めたけど、今の私はあれでよかったんだと思う。というか、シンゾウ君のほうは卑怯だなあって。もちろん、はっきり言わなかったことは彼の優しさではあったんだろう。私のほうも受験生だからということで、私がこのことで落ちてしまったらと心配してくれて、冷たいことは言えなかったんだとは思うんだけど。でも、それは優しさなんかじゃないよね。そこまでの気持ちがなかったとしたら、はっきりとそういう気持ちは持っていないと言ってくれればいいんだから。そうすれば、私ももう話しかけずに勉強の邪魔もしなかったと思うんだけどねえ。

ただ、もしかしたら彼のほうも大学に入ってからなら私のことも考えてみてもいいかなあと漠然と思っててくれたかもしれないんで、むげに冷たく突き放すこともできなかった、ということもありうる。そうじゃなきゃ、言われてからあれだけ困った様子は見せなかったと思うし。実際、彼は私のことを嫌ってたわけじゃなくて、けっこう話しするのも楽しんでくれたみたいだから、私のことは付き合うのもおもしろいかもって思ってくれてたみたいだもの。だから、卒業してからももっと積極的に繋がろうとすればあるいは、関係は長続きしたかもしれないなあとも思う。でもまあ、今は私は錬司と結婚できてよかったと心からそう思ってるんで、シンゾウ君のことは思い出の中の大切な宝物でいい。






inserted by FC2 system