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Little Eden



3月10日火曜日雪

偽りのエピローグの原稿は破れてしまった。そして、まだ劇は終わっていない。

卒業式が終わり、私はマナミと一緒に部室に行った。けれど、私はピアノ室に行き、マナミは皆のいる部室へ。私は一人ピアノを弾いていた。音楽室からはシンゾウ君のラッパが聞こえる。するとコンコンと音がしてハヤカワさんが顔を出した。
「もう帰るの?」というと「バイバイ」と言ったので「さようなら」と返事した。
フン!タニグチさんは何も言わんと帰ってしまったワイ。
それからしばらくしてユミコ先輩ともう一人、私の知らない先輩が来たので、私は部室の方へ移動した。マナミがいない。聞くと美術室に行ったということ。
私は恨めしげに音楽室と美術室のドアをみつめた。もうラッパは聞こえず、ピアノが聞こえていた。
私の足はひとりでに動き出し、そして手はドアをあけていた。
いた!ピアノのところにシンゾウ君が。私はゆっくり歩いていき、彼の傍らに立った。
しばらくして私は彼の隣に椅子を持ってきて座り込み、ずっと彼がピアノを弾いているのを見ていた。雑談を交えて。
シンゾウ君と話してると慰められる。卒業式の時のことも慰めてもらった。
「いいじゃない、いい声してたよ。どっかで聞いた声だと思ったら…」
「本当にその方面、進む気ないだ? ピアノも弾けるし歌もうたえるのに」
それらの言葉が、そして、ひと言ひと言が、どんなにやさしかったことか。
さあ、そこへコニシ君登場! しばらくは三人で楽しくやってた。
PM2:00か2:30頃、コニシ君は帰り、また二人きりになった。
今度はストーヴのところでシンゾウ君はラッパの手入れをしてた。私は、彼のそばに座って、彼がコニシ君から借りたドビュッシーの”月の光”がついてる楽譜を見てた。もちろん雑談を交えて。
すると「あれ、あれはマエダじゃないか」というんで、見てみたら、男の人と女の人が歩いてて、私はよく見えないので窓を開けたら女の人がこっちを向いて手を振った。
カオリちゃんだった。「今、帰り?」と言ったら「病院」と答えた。
さて、それから私たちは映画討論の話になり、自転車小屋までずっとその話でもちきりだった。シンゾウ君と並んで歩いていると、とてもなごやかな気分になった。
本当に驚いたことにシンゾウ君って何でも知ってるのよ。物知りだなぁって思った。
前にマナミが彼の話にはついていけんと言った時(もちろん音楽のこと)彼とは話が合わないからつきあっても苦労するんじゃないかなと思ったことがあった。
確かに、こと音楽となるとやたらちんぷんかんぷんで、今日なんかコニシ君と話してるのを聞いててわかんないとこもあった。
でも音楽いってんばりってわけじゃないってことが近頃だんだんわかり、得に今日なんか、それがよくわかった。映画もわりとたくさん見てるし。
「春休みは映画がたくさんあるなあ。ドラえもんとかガンダムとか…」
と、まんがの映画を次々とあげてみせるかと思えば、次は外国ものをズラズラと言うし。
私はとてもうれしくなってしまった。
でも”エクソシスト”とか”エイリアン”とかあんな類は嫌いだって。
「俺、あんな気持ち悪いのはスカン、嫌い」って言った時のシンゾウ君、見せてあげたいわ。
本当にイヤだっていうのがにじみ出てた。
なんだ”オーメン2”なんか一緒に見に行きたいなと思ったけどダメじゃない。
だけど、ちゃーんと題名は知ってるんだもん。
私、絶対、これからひまな時はシンゾウ君とお話するわ。
3年になってからも絶対に。

後に同じ大学に行った友達が、シンゾウ君が私のことを「友達以上に思えなかった」と言っていたと教えてくれたけれど、この日の日記を読むと、もしかしたら、と思った。私が頑張ってシンゾウ君と同じ大学の同じ科に通ったとしたら、もしかしたら友達以上になれたかもしれないなって。ただ、私は負けた。勉強を頑張れなかった。その程度の愛情しかなかったということだ。本当に心から好きで好きでしかたなくて愛していたというのなら、私は死に物狂いで勉強して同じ大学に入ったはずだ。私はそれだけの気持ちしか彼に持っていなかったということだ。私がきっとそれくらいの頑張りで同じ大学に入ったとしたら、きっと彼は私のことを受け入れてくれたんだと思う。それくらいの繋がりはこの頃からできていたから。

だから、やっぱり私と彼とは縁がなかったというだけだ。






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