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Little Eden



1月19日土曜日曇り

今日はたいへんな日だった。悲しいこと嬉しいこと、ごちゃまぜで…。泣いたり笑ったり忙しかった。
朝、いつもの通り、早く学校に行った。そしたら、あいつも早く来たのだ。あいつが私に話しかけた。
「コクケン!取りに行くらかぁ」つまり灯油のことである。その時は有頂天だった。それが無残にも打ち砕かれたのは物理の時間になる前の休憩時間。一緒にストーブにあたっていた、シノブちゃんがケイコちゃんに「…でも、あいつ、彼女がおるんよねー。今日が、つきあい始めて一年になるってねぇ」私はそこにいたくない気持ちだった。やっぱりあいつには彼女がいるのだ。それも中学の時からの。少なからず、私はショックを受けてしまった。ケイコちゃんには昨日言ったばかりだった。私、すごくみじめになってきて、どうやって自分の狼狽を隠そうか困った。それで無理にヤスヒト君のこと引き出したりもして、ますますみじめになってしまった。
だけど、その代わりに、シノブちゃんたちの私を心配する気持ちがわかっちゃって嬉しかった。
それから、ずーっと、あいつのこと無視した。これでやっと、あいつのことが忘れられるかな、と思った。
でも、決定的だったのは放課後掃除しに行こうと2組の前を通った時、丁度教室から出て来たヤスヒト君が、すれ違いざま「bye…」って言ったのだ。私にじゃなかったかもしれないけど、すごく小さい声だったから…。それからもうヤスヒト君はまだ私のこと忘れてるわけじゃないってわかっちゃって、あいつのこといっぺんでどこかに飛んでしまった。そりゃまだ三分の一ぐらいは残ってるけど。
ヤスヒト君のこと、またしょっちゅう見れば、あいつに戻ることはないと思ってる。帰り道では、シノブちゃんとケイコちゃんと、腹を割って話すことができた。「あいつはやめときなさい。ヤスヒトにしときなさい」って言われて、私はうんうんと頷くだけだった。本当にみんなやさしいんだな。
あいつに彼女がいることを知った時、悲しみより先にホッとした安心感が体の中を横切った。
あの時の、ガンジョさんに対する後悔の気持ちと同じものが胸の中にあふれてきたのだ。
本当に私はあいつを心の底から好きだと言えるのかどうか、わからなくなってきたのだ。
久しぶりに会ったヤスヒト君、いつもと違うあの人に見えた。出たり入ったりの私だけど、それでいいのかもしれない。
今、電話がかかってきて、出てみたらサミーだった。またノート貸してくれって。数Bの試験範囲。
ほかに今日のことやフナモト先生のことを話した。あのフナモト先生にはほとほとイヤ気がさした。
今日はみんなで悪口の言いあいだった。
だけど、まだ、すっきりしない。なんだかまだ胸にモヤモヤが残ってるみたい。それはまだ心の中の三分の一のあいつ。
これが出ていかない限りは、このモヤモヤもなくならないのかもしれない。一番いいのは、ヤスヒト君がまた例のごとく行動を起こしてくれればいいのだ。来週の月曜から再び生まれかわりたい。あいつを忘れて。

シノブちゃんたちは本当に私のことを心配してくれていたんだろうか。本当にそうだったのなら、あいつだけじゃなくヤスヒト君のことも忘れろと言ったはず。だって、それまでにマツオ君に私は言われてたんだから、ヤスヒト君のことは忘れろって。ただたんに私の気持ちをあいつから離れさせたいと思っての行動だったんじゃないかと今は疑っている。真相はわからない。あれからもう30年は経っているんだから。






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