今でも、真っ赤になって慌てて自分の教室に戻る彼の顔を覚えている。30年も前の出来事なのに。タクロウは色白な少年だったよなあ。そんなに美男子という類ではなかったと思うけれど、とにかくひょろりと背が高いのが印象的で、それでかっこいいと私は思っていた。バスケをする姿にしても、色白だったものだから見ようによっては「なまっちろい」という感じがしないでもなかったし。声も高くて落ち着いた声というものでもなかった。でも、コウイチロウの声はどうも思い出せないけれど、タクロウの声はハッキリと思い出せる。それも不思議なことだよね。どっちかっていうとタクロウよりコウイチロウのほうが今でも「好きになってよかった」と思える人ではあったんだけど。タクロウにはむかつく思い出のほうが多かったけれど、コウイチロウには楽しい思い出しかなかったから。嫌悪感のほうが好感より記憶に刻まれるということなのかしらね。 | ||